Archive for the ‘Book’ Category

「廃墟に乞う」(佐々木譲:著)

Posted by Obrien On 5月 - 14 - 2012

今年初めに文庫化された、佐々木譲の直木賞作「廃墟に乞う」が、書店でいまだ平台展開されています。売れているんですね。
 北海道警の敏腕刑事だが、“ある事件”で心身を疲弊させ休職中の主人公が、警察官ではあるが部外者的な立場で、私立探偵のように事件の真相を探りつつ、解決への橋渡しをしていくという、6話各50ページほどの短編連作集です。比較的平易で柔らかい文章が、ちょっと肩肘張って“組織”に対し反骨精神をみせつつも、決して常軌を逸脱することなく冷静な主人公・仙道の人柄を演出していると思います。
 舞台となるのは道内各地。実在の地名を明記するもの、伏せた話、両者ありますが、その場所の風景を容易に想像できるだけの土地勘は、持ち得ております。特に冒頭の「オージー好みの村」。この話の舞台は、倶知安町のひらふスキー場の近くという設定。パブ働く女性従業員が殺され、オーストラリア人オーナーに容疑がかかりますが、このパブの立地はまさに、私が4年前に研修でお世話になったアイリッシュパブ。オーナーがオージーというのも同じ。不思議な感覚とともに、当時の記憶が蘇りました。

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Category: Book

「私の途中下車人生」(宮脇俊三:著)

Posted by Obrien On 4月 - 29 - 2012

大好きな紀行作家、宮脇俊三氏の著作はほとんど読んでいますが、伝記とも言うべき「私の途中下車人生」は未読でした。
 これはロングインタビューをもとに、語り下ろしの形式で収録されたもの。宮脇さんの個人史は複数の書物、数年前の展示イベントなどから断片的に拾い集めてはいましたが、本著から新たに知り得た部分といえば、中央公論社時代のこと。最終的には会社のナンバー4まで出世した氏が、本来は優秀な編集マンだったということはよく知られていますが(『世界の歴史』を担当し大ヒットさせた)、肺病を患っていったん退職し、再入社していることや、重役に“させられた”経緯、ストライキ交渉の矢面に立たされたことなど、初めて知る経歴もいくつか。
 そして最後の章で語られるのは、紀行作家になってからのこと。中でも溜飲を下げたのは「旅の持論」について。旅の面白さは、日常から離れて異質なものに触れるところであり、遠くへ行くばかりが旅ではないと言う宮脇氏は、都会の近郊だって旅の醍醐味を十分孕んでいると説きます。極論すれば、毎日の通勤ルートを離れて、仕事帰りに知らない町の居酒屋で、地元のおっちゃんと酒を酌み交わすのも立派な旅。
 亡き宮脇さんが遺した言葉や信条を我が血肉としながら、私も一生、旅を楽しみたいと思います。そのためには、70歳でも、80歳になっても旅が出来る身体でいなければなりません。健康でいること、ですね。

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Category: Book

「火と汐」(松本清張:著)

Posted by Obrien On 4月 - 20 - 2012

松本清張の「火と汐」は、50~60ページほどの中編を4つ編んだもの。いずれも昭和42~43年に執筆されたものです。巻頭の表題作は、ひとつの殺人事件を巡って“大文字”の送り火で賑わう京都と、ヨットレースが行われている神奈川県油壺を結ぶアリバイのトリックを崩していく、清張本来の面白さを堪能できるものでした。多くの作品がそうであるように、些細な偶然、小さな綻びからトリックは崩されていきます。
 その意味で極端なのが、最後に収録された一篇「山」。犯罪が行われた場所から見た山の形が、何年もたって、忘れ去られかけていた事件を思い出させていくというもの。偶然が偶然を呼ぶかのような展開が“清張節”と言えるのかもしれませんが、時に少し強引で、食傷気味になってきたことも確か。次は久々に彼の長編を読んでみることにしよう。

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Category: Book

沢木耕太郎の「チェーン・スモーキング」はスポーツや旅についての、氏の豊富な見識や取材の中から生まれたエッセイを収録したもの。いくつかのトピックの傍流が合わさって、一本の主流としてのエッセイが出来ているような。つまり、あるエピソードの断片が別のものを呼び寄せるように連鎖しながら、ひとつの沢木ワールドを形作っている――つまりそこが“チェーン・スモーキング”ということなのでしょう。
 面白かったのは、「走らない男」と題された一篇。飛行機に乗る時は、よくギリギリになって走るハメになるという沢木氏。ちょっと余裕を持って搭乗すれば、該当する席がない。実は行き先の違う便に乗りこんでいた、というオチ。結局は走ることになってしまい……。発券、改札がアナログだった昔は、こういうこともあり得たんですね。

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Category: Book

「紫苑」(花村萬月:著)

Posted by Obrien On 4月 - 4 - 2012

花村萬月の初期の作品「紫苑」を読んでみました。
 修道院で育てられた美少女の殺し屋、というのがヒロインの“紫苑”。神父の指令を受け、曰くつきの政府要人たちを“密殺”していきます。と同時に、自身も何者かに命を狙われることに。そんな彼女に好きな人が現れ、性の目覚めが訪れて――という筋。なんだかリュック・ベッソンの『ニキータ』に少し似てる設定ですが、91年に著されたということは、どちらが先か…?
 殺傷能力の高い銃器を使いこなしながらの“仕事ぶり”の描写は、流れる血、ちぎれた内臓、飛び散った脳漿の匂いが伝わってきそうなほど。そのあとに続く萬月ワールドの原点というべきものですが、これは梶原一騎の劇画に近い世界と認識し、楽しめました。

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Category: Book

「螻蛄」(黒川博行:著)

Posted by Obrien On 3月 - 18 - 2012

これ、文庫本が出るのを心待ちにしていました。なので、ブックオフに出回るまでは待たず、新刊で購入した黒川さんの「螻蛄」。
 桑原&二宮の“疫病神”シリーズ最新作に登場するのは、宗教界に巣食う金の亡者たち。宗教団体が所有する至宝の絵巻物を巡って、権力争いを繰り広げる宗派、それにつるむ東京のヤクザ、ナマ臭坊主、そして疫病神コンビの争奪戦が繰り広げられます。金の匂いのするところを追いかけて、今回は、大阪~京都~名古屋~小田原~東京――と、東海道を行ったり来たり。痛快です。相変わらずの悪態、ののしり、毒舌のトークバトルは楽しいことこの上ないですが、緻密な取材の賜物と言える、宗教団体の内幕の濃密なリアリティが描かれているからこその、第一級エンタテインメントなのだなと思います。
 巻末の解説を読んで……。2011年に「暴力団排除条例」が施行されて以降、このコンビの関係がどう変化していくのか気になります。

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Category: Book

「運命の人」(山崎豊子:著)

Posted by Obrien On 3月 - 10 - 2012

日曜日に放送中のドラマ「運命の人」。毎週予約録画だけはしていますが、初回と2回目を見ただけで溜まる一方……。やっぱりいけませんね。「あとで見よ―」というのは。
「沈まぬ太陽」に続き実在のモデルのいる“闘う男”の物語ですが、今回はかなり傲岸不遜なキャラ。ひたすら耐える男=恩地さんとは大違いですが、新聞社の看板記者たるもの、そうでなければ務まらないのかもしれませんね。まあ、ナベツネを見てるとなんとなく分かります。彼はドラマ版のモデル(演じるのは大森南朋)におかんむりとのことですが……。当時の政治家の実名を少しだけもじった名前には臨場感たっぷりです。
 沖縄返還時にあったという密約と、それをスクープした政治記者の話であることは周知。上昇志向の塊→スクープを狙い→告発され、裁判→敗訴→退職を余儀なくされ、実家の稼業を継ぐも失敗→沖縄に逃避行――まさに生々流転ですね。読む者はこれを「身から出た錆」と取るでしょうか、「これも男の生き様」と思うでしょうか。いずれにせよ、善悪の対決的単純構図の「沈まぬ太陽」とは違って、何が善で何が悪か、混沌としたモヤモヤ感が残ることは確かです。

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Category: Book

ひとりの少年の成長譚では、萬月さんの大作「王国記」シリーズがありますが、これは第1部「ゲルマニウムの夜」を映画で観ただけで、いまだ手つかず。萬月さんの作品には、それだけでなくいくつか同種の作品がありますね。いわゆる少年の“性の遍歴”を描くものが。そのひとつ「ぢん・ぢん・ぢん」はブックオフでは見かけることが少なく、なかなか読めないでいましたが、やっと。
“ヒモ稼業”を目指す少年イクオが、新宿で巡り合ういろんな“種族”。初老のホームレス、顔役的オカマ、その美人妻、在日朝鮮人のヤクザ見習い、醜女の雑誌編集者、同性愛の作家、性転換した美人ママ、ソープ嬢etc…。物語のスタート時点では童貞だったイクオくんが、あれよあれよという間に……。
“その最中”の描写は官能小説そのものですが、美容整形の実情、性転換のあらましなどが事細かく説明されていて、それゆえの上下巻1000ページ超か(それはそれで勉強になります)。特に「指詰め」の描写が鮮烈でした。それによると、第一関節の間の軟骨のところに包丁を当てると、スパッといくそうです。私が鶏の手羽料理の仕込みをするとき、骨と骨の間の軟骨を割くのと同じ要領だわ。

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Category: Book

「新・バンコク探検」(下川裕治:著)

Posted by Obrien On 2月 - 13 - 2012

タイに精通している下川裕治氏の「新・バンコク探検」を予習のつもりで――だったんですが、バンコクに行ったことのない者にとっては、少し詳細すぎる内容でした。
というのも、市内のバス路線の見極め方、タクシーの運賃やシステムの変遷、渋滞が起こるメカニズムなど、知っていたら役に立つ内容に違いはないのですが、一度訪れた後に、復習&理解を深めるために読んだ方が良かったのかな、と。でもゴーゴーバーやマッサージパーラーなどのシステムの説明は、即、役立ちますね(笑)。

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Category: Book

未読だった宮脇俊三の「韓国・サハリン鉄道紀行」を読了。ソウル~大田~麗水~(水中翼船)~釜山~(バス)~慶州~安東~ソウル、という行程の韓国列車旅。時代は80年代後半なので、もちろん韓国新幹線(KTX)はできていません。韓国のローカル線にも、ループ線やスイッチバックなど鉄道ファン垂涎のスポットがたくさんあるようですね。最近では、日本からも鉄道目的のツアーがあるくらいですから、21世紀の鉄道ファンにはすでにお馴染みのようです。ですので、一番興味を持ったのは、麗水(ヨス)から釜山までの水中翼船。慶尚南道の海岸線は多島海なので、船旅は楽しそうですね。
 後半はサハリン。宮脇氏が訪れたのは1990年。あくまで当局の案内・監視のもとでの旅だったようです。かつて日本が敷設した鉄道を走り、感慨に浸る宮脇氏。大泊や豊原、真岡など、旧地名が出てくるたび、行ってみたい気持ちが高まります。サハリンをはじめ、国後、択捉など北方領土に眠る観光資源を考えた時、日本返還、とまでいかなくても、気軽に旅が出来るようになればと思う次第であります。

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Category: Book